人気作『薬屋のひとりごと』作画担当者の脱税騒動：4700万円の背景と経緯

『薬屋のひとりごと』とは

『薬屋のひとりごと』は、日向夏氏が執筆した人気ライトノベルシリーズです。この作品は、後宮を舞台に薬と毒に詳しい主人公・猫猫（マオマオ）が活躍する物語です。小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていた作品が、加筆・修正を経て出版されました。

本作は漫画化やアニメ化も果たし、幅広い層から支持を集めています。特筆すべきは、漫画版が2種類同時に刊行されている点です。スクウェア・エニックスから「薬屋のひとりごと」（作画：ねこクラゲ）、小学館から「薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜」（作画：倉田三ノ路）が発売されています。

2024年、『薬屋のひとりごと』のスクウェア・エニックス版の作画を担当する漫画家ねこクラゲ氏（本名：池田恵理香）が、約4700万円の脱税で告発されました。

具体的には、2019年から2021年にかけての3年間で、約2億6000万円の所得を申告せず、結果として約4700万円の所得税を納めていなかったことが明らかになりました。この金額は、漫画の作画収入などから得たものとされています。

ねこクラゲ氏は2010年から漫画家として活動を開始しました。当初から知人から確定申告の必要性を教えてもらっていたにもかかわらず、申告を怠っていたことが明らかになっています。

脱税の理由について、ねこクラゲ氏は「漫画の締め切り期限を優先し申告しなかった」と説明しています。また、「数年分まとめて確定申告するつもりだった」とも述べており、税金に関する知識不足も一因であったことがうかがえます。

2022年、税務署からの指摘を受け、ねこクラゲ氏は本税、延滞税、無申告加算税を含む全額を納付しました。その後、税理士に依頼し、適切な申告と納税を続けているとのことです。

2024年2月29日、福岡国税局が所得税法違反の疑いでねこクラゲ氏を福岡地検に告発しました。7月24日に行われた裁判では、福岡地方裁判所が懲役10か月（執行猶予3年）と罰金1100万円の判決を言い渡しました。

福岡地方裁判所の武田夕子裁判官は、判決の中で以下のように述べています：

「作画を担当する漫画が人気となり、多額の所得を得るようになったが、確定申告を行わなかった。数年にわたる多額の脱税は悪質だ」
「年齢相応の社会制度に対する理解が不足した被告が、確定申告の重要性を軽く見て目の前の仕事やプライベートを優先させ事務作業から逃げ続けた結果の犯行は、経済的な利得を目的とした犯行と比較すれば、強く非難すべきとまではいえない」

これらの判断から、裁判所は執行猶予付きの判決を下したものと考えられます。

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— ねこクラゲ✽薬屋⑬発売 (@nekokurage_) September 9, 2024

事件発覚後、ねこクラゲ氏は自身のSNSアカウントで謝罪文を公開しました。その中で「以前の私は税金に関して無知であったため確定申告を怠っていました」と述べ、自身の不勉強を認めています。

また、判決後にも再度謝罪文を公開し、「この度は、私ねこクラゲの納税に関わる事でお騒がせして申し訳ありませんでした」と述べています。さらに、「今後は二度とこのような事を起こさない事を誓います」と決意を表明しました。

この事件が『薬屋のひとりごと』の作品自体に与える直接的な影響は、現時点では明らかになっていません。ねこクラゲ氏は謝罪文の中で、「作品を描き続ける事で、皆様へ償いと恩返しができればと思います」と述べており、今後も作画を続ける意向を示しています。

また、ねこクラゲ氏は「本件はねこクラゲ個人の問題であり、私がコミカライズを担当している作品の原作者様や、同作のコミカライズに関わる他の先生方には一切関係がありません」と明言しています。

この事件は、漫画業界全体に大きな波紋を投げかけました。特に、急激な収入増加に対する税務管理の重要性が改めて認識されることとなりました。

漫画家やイラストレーターなど、フリーランスのクリエイターにとって、確定申告は避けて通れない重要な業務です。しかし、創作活動に専念するあまり、経理や税務の知識が不足しがちな面があります。

今回の事件を教訓に、業界全体で税務知識の啓発や、確定申告のサポート体制の強化が求められるでしょう。出版社や事務所が、所属するクリエイターに対して税務セミナーを開催したり、税理士との連携を強化したりするなどの対策が考えられます。

『薬屋のひとりごと』の作画担当者・ねこクラゲ氏の脱税事件は、人気作家の突然の不祥事として大きな注目を集めました。約4700万円という多額の脱税は、知識不足と業務優先の姿勢が招いた結果でした。

この事件は、クリエイターの税務管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。今後、業界全体で税務知識の向上や確定申告のサポート体制の強化が進むことが期待されます。

ねこクラゲ氏は謝罪と共に作品制作の継続を表明しており、今後の活動と『薬屋のひとりごと』の行方に注目が集まっています。